両親の葬式を妄想する日がある

心のざわつくニュースばかりだと感じるのは結局そういうものばかり覚えているからなのだろう

都会にイノシシも出ていれば各地で地震があったというニュースだって見たはずだ

私は忘れたいニュースばかり忘れられないだけなのだ

親が子を殺める、幼児虐待死、所謂無敵の人の親族へインタビューに向かう報道

私とは関係ない、私が意見する必要もない事なのに心を掻き乱す

 

例えば私が無敵の人になったとして、世間に映る私の両親は平凡なものであろう

目に見える虐待をされた事はない、貧困だった訳でもない

平凡な家庭から何故、と世間は思うまでもなく狂った犯罪者だと事件を片付けるだろう

 

私の家庭は父が無関心、母はヒステリーという割とよくあるものだった

父は理由がわからないところで狂ったようにしばしば怒鳴り、母は呆れていた

母に意見は通用しなかった、何もかも屁理屈だと一蹴された

私は小学生の頃まで親の機嫌を伺っていたが反抗期と共に引きこもりがちになり、たまに泣き喚き、人間を捨てたように怒りに身を任せた

母は私が目の前で脚を切っても悲しみもしなかった

今となっては滑稽なものだ

家を出るまでの不満などいくら書いても足りないので割愛するが、引きこもりの私をいないもののように扱い、殊に田舎であったため周囲には気付かれないようにしたいようだった

ネグレクト、と言うには私が歳を取りすぎていたが親子の縁は切れていたように思う

とにかく、引きこもりの娘が恥ずかしく、疎ましいものだったのだ

 

その頃の私は社会というものがとてつもなく怖かった

母に「こんなんじゃ社会でやっていけない」だの「バイトすら出来ないでしょうね」だの呪いのように言われていたからだと思う

家は嫌いだったけれど外に出ることも怖くて出来なかった

 

そんな内向的で鬱屈した時に太宰ばかり読んでいた

どうしようもない私を助ける人間などいなかったためか何も知らないくせに社会も憎んでいた

小説家になるか死ぬかしか無いと思っていた

どうやって小説家になるかなんて知らない

本当はただ死にたかったのだ

死ねば社会との繋がりが残るような気がした

両親への恨みつらみを書き残して

けれど死ぬことすら実行できなかったので生きながらえて結局家を出た

一人暮らしの資金は簡単に親が出した

とにかく引きこもりの恥ずかしい娘を手放したかったのだ

社会は母が言うほどやっていけないものではなかった

それからいくぶんか経って自分で金を稼ぐようになり運良く結婚した

 

結婚生活は些細なことはあれど安定している

旦那には見捨てられない安心がある

だが思うのだ、私の血は両親から受け継いでいる

家を出て何年か経ち精神科通いになり、カウンセリングで話すことといえば家庭のトラウマばかりだ

両親から離れたい

私の中でいつまでも消えない

気まぐれに祝う誕生日とか、祝われない誕生日とか、体型や服のセンス批判とか、貴方に子育ては無理、とか、もう色々

 

機嫌も体調も悪い日は両親の片鱗が顔を出す

ヒステリーじみた態度、実行はしないが暴力への衝動

いつまでも自分を好きになれないでいる

いつまでも奥歯を噛み締めている

 

何もかもを捨てたいと思ったって何度死にたいと思っても死ねなかった私が即座に消える事はなく、嫌いな自分を忘れたフリして堕落して生きながらえている

 

いつか訪れるであろう両親の死、葬式、ああ何も関わりたくない

いやいっそのこと完璧に仕上げてやろうか

私のことを見捨てた両親へ何て言葉をかけてやろうか

 

私も母のようにヒステリーになって「地獄に堕ちろ」とか叫ぶのだろうか

 

なんてね